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奇特

だからなんだってな物事の輪郭を指でなぞっていくうちに夜が明けていて、陽の光をカーテン越しに眺めながらその時分には眠気に包まれていると望ましい。


七、八年ほど前に治療してもらった箇所にはカブセモノがしてあるのだが、どうやらいつの間にかそれが欠けてしまっており、しかも欠けた隙間にカスが溜まってまた虫歯になってしまっている。と、別の虫歯を治療した際に伝えられたのが三月の頭だからまた僕はそこからひと月も虫歯を放置していたことになる。虫歯なんて放っておいても治らないにきまっているのに、自分にはそういうところがある。関係あるかは知らないが、祖母にもそういう悪い意味で雑なところがあり、医者から渡された薬を全くきちんと飲まずに気づいたら死んでいた。金歯の部分だけがしっかりと焼け残っており、火葬場で親戚一同がどよめいていた記憶がある。


自分が通っている歯医者は十年近く前から全く風貌が変化していない老人で、いい加減別の歯医者を探さなきゃなとは思いながらも「これはヤバいね!深いよお!!」と嬉々と報告しながら歯を削りまくるこの人を前にすると、全てが面倒くさくなって「もう好きにしてください」という気になる。


僕はこの歯医者しか知らないからすごく少ないサンプルを駆使して語らなくてはならないのは、歯医者の詰め物っていうのは、あれはほぼ図画工作と要領は同じなのではないかということだ。そうかねてから思っていた。よくわからない薬を塗って伸ばして、粘土と何が違うんだろうか。他所もそうなんでしょうか。


とりあえず様子を見るからね、大丈夫そうならもうちょっと削ってカタとってはめよう、もしかしたら神経までとらなきゃならないかもしれないけど神経はいつでもとれるから、とりあえずね、とのことだから、次の火曜日まで様子を見ることになった。

「すいません、ペンお借りできますか。手帳にかきこみたくて」

「俺、手帳なんて持ったことないよ!全部ココ(と、言って禿げかけた頭を指し)に入ってるんだから」

「えっ、すごいですね」

「そうだよ〜すごいんだから」


会計は933円だった。1000円渡すと70円返ってきた。医療機関でオマケという制度があるんだ、という新鮮な驚きを胸に外へ出る。就活用の証明写真を撮ろうと写真館へ予約の電話をすると「御茶ノ水店は期間限定のオープンなので今はございません」と不明瞭な説明を与えられたのでやる気を無くし、家へ帰って寝た。