終電ラブストーリー

改札を出ようとすると、社会人であろう身なりをした女性が切符売り場付近で叫びながら号泣しているのが見えた。立ったり座ったり、地団駄ふんだり、多様な表現をしていて、やや異常に感じられたから最初はそういう人なのかなと思ったけれどそういうわけでもなさそうだった。いてもたってもいられなくなった自分は、被害を蒙ることのなさそうな通りの反対側へ移動すると、さも誰か待っているような雰囲気を漂わせながら事態の推移を見守ることにした。

 

「なんっなのよぉー」

 

裸足のようにも見えたけれど、実際のところどうだったかきちんと思い出すことができない。足の部分だけ妙に霞んでいて判別がつかなかったのだ。裸足である理由がないし、裸足じゃなかったのかもしれない。女性は改札横の駅員が待機している窓口付近で感情を吐露していて、駅員も対応するべきか否か決めかねているようだった。

 

「本当にあの現場最悪、二度と行かない、なんで、なんで坂口が許されて私は、あんな、うぅ、辞めてやる、辞めてやるぅ」

 

彼女は嗚咽交じりに言葉を漏らし、切符売り場まで段々と歩みを進めては、また窓口まで戻る一連を繰り返していた。

 

見物もそこそこにしてそそくさと帰路につく。すると、しばらくして後ろの方から「ウワーハーハーン」と声が響いて聞こえてきた。帰り道が被っていたのだ。なんとなく歩幅を短く調整すると、気づけば自分は、彼女と同じ信号を待つまでに接近していた。

 

「死んでやる……死んでやる死んでやるっ」

 

そう叫ぶと彼女は突然道路へ飛び出した。

 

「マジか」

 

と思ったのもつかの間。しかし、足は二、三歩でピタリと止まった。

 

「止まるのか」

 

そして、何事もなかったかのように歩道へと戻ってきた。車両は少なかったけれど、その思いきりの良さに感心してしまった私はこの後も何か行動を起こすのじゃないかとしばらく凝視していたのだが、なんか先方はそれから憑き物が落ちたみたいに冷静になってしまっていて、こちらの盛り上がりをよそに信号が青へ変わるとスタスタと真っ直ぐ歩いて坂の下の方へと消えていってしまった。そういえば車道へ飛び出そうとする彼女の姿は若干楽しそうにも見えた気がする。案外あの時点で既にギャグへと入っていたのかもしれない。