先輩

もう一軒どこか行きましょうって言ってから歌舞伎町を一時間半も徘徊していたのかと思うと完全に神回だが、当事者から言わせていただくとそれは間違いで歩けば歩くほどキャッチに声をかけられればかけられるほどゴールデン街の盛り上がっているバーを覗けば覗くほど、入る勇気がないのか想像を上回る期待が持てないのか知らないけどどちらともなく「なんかね」となって歩いているうちに寂しさが身体に染みてきて、おまけに風も冷たいしでそのまま地面にめり込んでブラジルまで行ってしまいたい気分になりました。隣の先輩は相変わらず栄養失調のタイ人の子供みたいな顔をしてるし、スナックでもオカマバーでも連れてってくれやと僕は思うわけですが僕から言い出すのはなんか恥ずかしくて、嫌なんで「ストリップでも開いてたら行くんですけどね」となるべく敷き詰めてはみるが「俺、こないだ3日間でオナニー10発もしちゃったんだよ、なにやってるんだろうね」となにやら形無しの話題が帰ってきて、それが悲しいやら嬉しいやら、先輩は以前にも新宿のカプセルホテルに泊まった際に「何かないかと思って」この歌舞伎町周辺を散策したことがあるのだそうだ。 僕はその不毛さに共鳴しながらも「俺はそこにいないよ」とでも言いたげな一瞬の間を経ると、さも何か真理を突いているかのような自惚れたニヤケ顔で「でも何もないんですよね」と合いの手を入れたが、確か「いや、なかなか面白いよ」と、マジでそう思った人のトーンで球が返ってきたので動揺した。